病院紹介:市立豊中病院について

市立豊中病院広報誌 病院だより No.42(平成29年3月発行)

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第14回 がん医療市民公開講座
「がん医療の最前線 がんを治すロボットの力と薬の力」

平成28年11月12日(土)阪急曽根駅前のアクア文化ホールにおいて、シリーズ第14回目の「がん医療市民公開講座」を開催いたしました。
今回は、当院でも導入した「手術支援ロボット・ダヴィンチ」を活用した前立腺がんの治療や、血液がんと薬による治療について、2講演をお届けしました。

第一講
「前立腺がん治療:手術支援ロボット・ダヴィンチXi導入でどう変わるのか?」

市立豊中病院 泌尿器科部長 三宅 修 医師

前立腺がんとは

前立腺がんとは、尿道を取り囲むクルミ大臓器の前立腺に発生するがんであり、主に辺縁域に発生し、がん早期は無症状なことが多いのですが、進行するにつれ残尿感や頻尿などの排尿症状が出てきます。より進行が進んで、骨に転移すると腰や背中に痛みが出るようになります。
前立腺がんの患者数は年々増加しており、男性のがんでは、平成27年に胃がんを抜いて第1位となっています。前立腺がんの95%は60歳以上で、高齢者ほど発生しやすいがんです。
その一方、死亡率は低く、前立腺がんは様々な薬や手術手技の向上により治癒率の高いがんといえます。また、PSA検査(※下記『豆知識』参照)により、症状の出にくい前立腺がんを早期に発見することが出来るようになりました。

豆知識

PSA検査

PSA検査は、前立腺から分泌される血液中のPSA(前立腺特異抗原)というタンパク質の濃度値を調べるものです。PSAの基準値について、4.0という数値をよくきかれるかと思いますが、正常上限値は50~64歳は3.0、65~69歳は3.5、70歳以上は4.0と異なります。またPSA値が20以上の場合、がんが見つかる確率は80%以上となります。検診の間隔は、PSA値が0~1.0だと3年毎、1.1~基準値上限(3.0~4.0)だと毎年、が推奨されています。豊中市でも平成23年4月から、50歳以上の男性を対象に市の検診として、PSA検査を用いた前立腺がん検診を低額で受けられるようになりました。お近くの泌尿器科専門医やかかりつけ医で検査を受けることができます。

【参考】豊中市ホームページ おとなの健診・がん検診 受けよう健診、守ろう健康

診断

PSA検査で高値であった場合、肛門から指を挿入して前立腺の腫れを調べる「直腸診」と、当院では前立腺のMRI検査を積極的に行っています。PSA値が20以上の場合には、PSAの再検査と直腸診、MRI検査に加えて、1ヵ月以内に生検を行います。生検は、細い針で組織の12~16箇所を採取して顕微鏡で観察し、悪性か良性かを判断するものです。生検結果で悪性と判断された場合は、骨シンチグラフィとCT検査を行い、転移の有無を確認して全身状態の把握を行い、治療法の相談や決定をしていきます。がんが前立腺内に留まっているものを限局がんといい、治療法は、限局がんかどうかにより大きく変ってきます。

限局がんに対する治療法

限局がんに対する治療法については、「PSA監視療法」、「放射線治療」、「手術治療」などがあります。

「PSA監視療法」は、比較的おとなしいがんがごく少量のみ認められ、治療を開始しなくても余命に影響がないと判断される場合に選択します。2~3ヵ月ごとのPSA測定、直腸診、超音波検査を実施し、経過を監視します。

「放射線治療」には、体の外から放射線を照射する「X線外照射治療」や「粒子線療法」、前立腺組織内に放射線を発生させる線源を挿入し内部から照射治療する「小線源療法」があります。X線外照射治療の中には、「強度変調型放射線療法(IMRT)」といって、患部にのみ正確に多くの照射ができる治療法もあります。「粒子線療法」については、現在のところ受診出来る施設が国内で15施設と限られ、また保険外診療となるため高額な治療となっています。

「手術治療」には、「開腹手術」「腹腔鏡手術」「ロボット支援手術」があります。「開腹手術」は、出血量が多く、尿漏れが長引くことがあります。「腹腔鏡手術」はお腹の5ヶ所にあけた穴から鉗子を入れて手術する方法であり、当院でも従来から実施してきたものです。

ダヴィンチによるロボット支援手術

「ロボット支援手術」は、「腹腔鏡手術」の進化形であり、鉗子をロボットのアームにセットし、手術者は患者から離れたところで鉗子を操作して手術します。

市立豊中病院でも、ロボット支援手術の最新の機器であるダヴィンチXiを導入し、平成28年11月よりロボット支援手術を開始しました。平成28年11月現在保険適応のあるロボット支援手術は、前立腺がんの全摘術と腎臓がんの部分切除のみです。ダヴィンチは、平成28年11月現在、日本で約230台、大阪では約20台導入されており、平成26年に大阪市内で行われた前立腺がんの手術の半数以上はダヴィンチによるものです。

ロボット支援手術の特徴としては、「(1)手振れがない」「(2)手術者が10センチメートル動かしても、鉗子の動きは数センチメートル程度と縮尺変更機能がある」「(3)鉗子の先端が回転屈曲し、狭い箇所でも縫合や結紮けっさつが容易である」「(4)遠近感のある3D画像の拡大視野で行える」「(5)手術者は椅子に座って行うことが出来、長時間無理な姿勢をとる必要がないため、必要な集中力を保つことが出来る」ことが挙げられます。ロボット支援手術は、がんの治療成績では従来の腹腔鏡による手術とあまり変らないものの、緻密な手術が可能であることから、出血量の減少、直腸損傷などの重篤な合併症の軽減、特に術後の性機能や排尿機能改善などの面で貢献しています。

第二講
「血液がんと最新の薬物療法:どんながん?こわくない?」

市立豊中病院 血液内科部長 小杉 智 医師

血液がんとは

血液の成分は、骨の中にある「骨髄」にいる造血幹細胞が分化して作られます。血液がんとは、その過程のどこかで細胞がおかしくなり、「がん化」して無制限に増えるようになったものです。どの分化の場所でがん化したかによって、大きく「白血病」「リンパ腫」「骨髄腫」の3つに分けられます。これらの患者さんの数は、すべてを合わせても人口10万人あたり約15~16人であり、決して多くありません。血液がんの原因は解明されていませんが、遺伝子の“後天的な突然変異”によるものと思われています。遺伝することはありませんし、生活習慣によるものでもありません。治療は、血液が全身を巡るように、がん化した血液細胞も全身に散らばっていて、抗がん剤化学療法という薬による治療が中心となります。

急性骨髄性白血病と殺細胞性抗がん剤

「急性骨髄性白血病」では、白血病細胞が無制限に増えて正常な血液が造れなくなることにより、貧血、出血しやすい、感染症にかかりやすい、等の症状が起こります。また、白血病細胞が様々な臓器に侵入し臓器障害が起こります。1980年頃から「殺細胞性抗がん剤」による治療が発達し、数週間であった平均生存期間は数年間に延長しました。この抗がん剤は細胞分裂に必要なDNAの合成を妨げるもので、増殖速度が速い細胞に強く作用します。そのため、がん化した細胞に効果がある一方で、正常造血細胞や細胞増殖の盛んな正常細胞にも影響を及ぼします。副作用として、正常白血球の減少、脱毛や口内炎などが避けられません。

慢性骨髄性白血病と分子標的療法薬

最近「殺細胞性抗がん剤」に加え、「分子標的療法薬」が使われるようになりました。最も成功した血液がんが「慢性骨髄性白血病」です。これは、遺伝子の突然変異により異常なタンパク質ができ白血病化するもので、かつては5年程度の経過で死亡する疾患でした。慢性期に骨髄移植を行うことが唯一の治療法でしたが、「分子標的療法薬」が使われるようになってから糖尿病合併高脂血症と同程度の生存率となっています。この薬は異常なタンパク質に特異的に結合することにより、白血病化のエネルギーの流れを遮断します。その結果、血液細胞が白血病細胞にならず、正常な造血が行われるようになります。ほぼがん細胞にだけ作用するのが、以前の薬と異なります。

悪性リンパ種と抗体療法

分子標的療法薬にはがんにだけ存在するタンパク質(抗原)を攻撃するものもあり、抗体療法と呼ばれています。悪性リンパ腫は、リンパ球が腫瘍化してリンパ節などに固まりを作ったもので、リンパ節が腫れ、時に倦怠感・発熱など風邪に似た症状が現れることもあります。日本人で最も多い「びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫」には、以前から3種の「殺細胞性抗がん剤」を組み合わせた療法が行われてきましたが、さほど治療成績が改善しませんでした。ですが、これに抗体療法薬を加えただけで、5年後の生存率が著明に改善し、長期に再発しない人も増えています。

多発性骨髄腫と新規薬剤

「多発性骨髄腫」は、B細胞リンパ球から分化した形質細胞ががん化して増殖し、異常なタンパク質を作る病気です。骨溶解、腎障害、貧血などが起こります。がん細胞の増殖スピードが遅いことから、「殺細胞性抗がん剤」が効きにくく、治癒は困難でかつては1~2年程度の生存期間でした。しかし「新規薬剤」である「プロテアソーム阻害剤」と「免疫調整薬」の登場により、その2倍程度まで改善がされています。前者はがんの増殖に必要なタンパク質の再利用を阻害するもので、特有の副作用もありますが、いわゆる脱毛や白血球減少などの「殺細胞性抗がん剤」で必発の副作用が少ないということも利点です。

安定した有効な治療をするには

分子標的療法薬のような優れた効果のあるお薬が出てきて、予後も改善されています。イメージの悪い、「脱毛」や「無菌室が必要」などの「抗がん剤の副作用」の少ない薬です。ただ、それぞれの薬剤に特有の副作用が結構あります。「慢性骨髄性白血病」の治療に使われる「チロシンキナーゼ阻害薬」の「イマチニブ」は、副作用軽度とされますが、発現率は98%と高いため、きちんと服薬出来ている人は案外少ないです。しかし、きちんと服薬していない人は予後が悪いということがあります。ある研究では、継続して薬の治療を続けるためには「(1)患者さんご自身の理解」「(2)患者さんと医師とのコミュニケーション」「(3)服薬方法の工夫」「(4)配偶者や家族のサポ-ト」が有効であったとされています。長期の治療には新しい薬の開発もさることながら、患者さんを支える周りの人のサポートが非常に重要です。また、そのサポートにより患者さんがより長く、よりよい人生を送ることが出来ればと願っています。

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